谷和樹の教育新宝島

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谷和樹の解説

お正月の遊び
明けましておめでとうございます。
お正月は何をして遊びますか。
教室の子ども達にも、なにかしら遊びをおすすめしたいですよね。
私ですか。
私は平凡です。
まず「コマ」ですね。
子どもの頃は、お正月に一生懸命コマ回しをしました。
ヒモを巻いて、ブンッと投げて回すあれです。
手の上に載せるとか、ヒモで綱渡りをするとか、そういうのは上手ではありませんでしたが、挑戦するのは面白かった覚えがあります。
それからもちろん「凧あげ」ですね。
これは、ほぼ毎年やっていました。
買ってきた凧をあげることもありましたが、自作していたことも多かったと思います。
小さいころは父親が一緒につくってくれた記憶があります。
竹ひごを曲げて、和紙を貼って、半紙で2本の足をつけて、何かしら絵を描いて、外であげるのです。
小学校5年くらいのときには、「ボックスカイト」を自作しました。
「立体凧」とか「あんどん凧」とか言われているやつです。
なにか子ども向けの雑誌などにつくり方が書いてあったのでしょう。
材料から全部自分で選び、熱中してつくりました。
完成したので父親に見せにいくと、車に乗せてくれて、霞ヶ浦の広い湖畔で、いい風の中であげさせてくれました。
すごくよくあがりました。
あやとりも母親から教わって少しやりました。
けっこう面白くて、ハマった時期があったと思いますが、今ではひとつも思い出せません。
けん玉もやりましたが、あまり上手くなりませんでした。
ちなみに向山洋一はけん玉も上手です。
玉を前にふり出して、手首のスナップで手間に一回転させ、玉の穴に剣先をいれる、いわゆる「ふりけん」を、向山は10回中9回成功させる腕前です。

そうした中、なぜか一番印象に残っているのは、お正月と特に関係ない「ルービックキューブ」です。
日本で発売されたのは1980年。
私が高2のときです。
発売1年目で国内400万個。
1982年までには世界で1億個の売上を突破する大ブームになりました。
すぐに手に入れて、「数学的に」解く試みをしましたが私の数学力では解けませんでした。
当時の雑誌『大学への数学』に掲載された解法などを参考にして、一度完成させたら面白くなりました。
本来、大学受験の勉強をしなければいけなかったのですが、お正月にずーっとやっていた記憶があります。
当時は1分以内、おそらく10秒程度で完成できていたと思います。(今はもちろんできません)
今は、様々な解法が開発されていて、小さい子どもでも簡単にできるようです。
世界記録は3秒台だとか。
というわけで、お正月というと、なぜかルービックキューブを思い出すという、歪んだ記憶構造になってしまっている変なお話でした。

1 向山の授業の印象
さて、お正月特別付録でしょうか。
今月はなんと!向山の未公開映像がついていますね。
これは極めて貴重な映像です。
まず、映像を見ましょう。
これを見て、なにか分析できますか?
いや、ふつう無理でしょう。
ちょっと難しいと思います。
この授業の「背景」から知る必要がありますから。
この向山の授業を分析すると1冊の本になります。

印象レベルでいいので、まず、簡単なところからみてみましょう。

1 向山の声や目線
声です。
非常に劣悪な録画保存状態ですが、向山の声はハッキリと通って聞こえます。
教師にはこういう、個性的で明瞭な「声」が必要だと私は思うのです。
みんな同じような声ならAIでもいいわけですから。
また、目線です。
向山の顔がアップになる場面があります。
子供達にしっかりと目線を合わせていることが分かります。
手のジェスチャーも柔らかくて特徴的です。

写真
こうした身体的な要素もAIでは難しいです。
子どもたちの声もいいですね。
子どもたちの授業後の作文をみると、非常に緊張したと書いている子が多いです。
映像でも、やはり緊張感はあります。
ですが、一定の落ち着きがあり、へんなキンキンした感じがありません。
非常によく育っているクラスだなという印象です。
子どもたちの姿勢、手のあげ方、前を見る視線などからもそれは分かります。

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2 作業指示
作業指示が特徴的です。
子どもたちに手を挙げさせたあと、向山はいちいち丁寧に「手をおろしなさい」と指示していますね。
そうしないと、変に「バラつく」ことがあるのです。
もちろん「バラついていい」場面もあります。
ただ、このように次々に手を挙げさせる場面では、ちゃんと区切ってやったほうが、子どもたちも、見ている人たちも、気持ちが安定します。
次の指示も印象的です。
「どの地図の上でもいいですから、指でずーっとやってごらんなさい」
指でなぞらせる指示ですね。
こうしたちょっとした作業が、子ども達の意識を集中させ、気づかせる内容を高めるのです。
37歳の向山洋一は、そうした基本スキルはすでに完成の域だったということです。
3 ICTの駆使
ICTというのは、OHPのことです。
今ではもうありません。
でも、当時はこの機械が全盛でした。
そのOHPの透明シートを重ねることによって、
「仮説の検証」
をさせているのです。
透明シートは「トラペン」と言います。
1980年としては最先端の手法でした。
今なら当然PCやアプリでやるところですね。
実はこのとき、向山は次のような指示を子どもにしています。

<橋本さん>
白い紙にまとめた時、先生からアドバイスを受けた。人口密度のとき、「八百〜千以上をこえている所を色でぬりつぶしなさい」と言われたのだ。
ぬりつぶしてみると、工業地帯の位置とぴったしだ。「うわぁー。さすが向山先生だ」とおもった。

塗る、重ねる、表にする・・・等、別々の手法を 別々の子どもにアドバイスしていました。
このような作業があって、この時間の授業につながっています。
2 一時間の流れ
かつて私は、この授業の一時間の流れを推定し、発表したことがあります。
向山の指導案と授業後の子どもたちの作文から推定したのです。
そのときの資料がこれです。

図
その私にとって、映像の発見は大ニュースでした。
6分だけなので全体はわかりませんが、上の資料の「2」の部分や「9」の部分の映像の一部ではないか、と思われます。
一部ですが、そのイメージを得ることができただけでも貴重です。

3 この授業の価値(問いをつくる力)
みなさんは今、次のようなことを聞きませんか。
教師主導から子ども主体へ
私自身は、「教師主導」と「子ども主体」は矛盾してない!って思ってます。
思ってますが、あまりに教師が「説明」するのはな。
あまりに「暗記」させるのもな。
ちょっとな・・・ってことですよね。
次のような言い方で言われることもあります。
子どもたちが「問い」を立てる力が大切
まったくそうですよね。
でも、なかなか難しい。
このあたりのことについて、Wedgeっていう雑誌で取材があったので、よかったらそれもごらんください。
Wedge (ウェッジ) 2023年 11月号
子どもたちが「問い」を立てる力が大切っていっても、でも、具体的にどうすればいいの?
って思いませんか。
そのヒントが、この向山の授業にはあります。
できるだけ、かいつまんで書きますね。

1 経験と学習の関係
どんな勉強も、紙で勉強しただけのものは、ちょっと弱いです。
「工業地帯」って言いますが、それって「経験」したことあります?
工業地帯を経験するって、ちょっと無理でしょ。
まして、とっても田舎で育った子に、「工業地帯」を肌で理解させるって難しいです。
それは、どんな勉強でも同じです。
だから、実際にやってみたり、見学したり、観察したり、実験したりすることが大事なんです。
もちろん、全部やってみることはできないですが。
大切なことは、できるだけ経験を通そう
ということです。
向山はそのことを「雪」にたとえて書いています。
図
向山のこの授業では、もともと京浜工業地帯のど真ん中に住んでいる子たちですから、その経験を思い出させることが第一でした。だから、
君たちは京浜工業地帯の一角で10年余を生活してきた。工業地帯であることを示す体験を述べなさい。
このような授業から始まっているのです。
経験を思いだしても、それがそのまま「学習」にはつながりません。
それで、次のような作業をさせます。
2 仮説化
次のような文章で「仮説」をつくらせるのです。
図
1)「〜であれば工業地帯である」(〜が多ければも含む)
2)「〜であれば工業地帯になりやすい」
3)「工業地帯であれば〜である」
それぞれ、1)指標、2)立地条件、3)影響、を表します。
1)2)は、
Aであれば工業地帯
という形をしています。
Aが原因で工業地帯になっているということです。
3)は、
工業地帯であればB
という形をしています。
因果関係が逆になっています。
図
こういう形で仮説を作らせているのですね。
これは「問い」をつくることそのものです。
子どもたちに、
自分で問いを持ってごらん
っていきなり言っても途方にくれるでしょう。
こうした具体的な「方法」を教えるから、問いを立てることができたり、仮説をつくることができたりするのです。
4 情報処理能力をどう授業するか
問いを立て、仮説をつくったらそれでおしまいではないですね。
仮説ですから「証明」しなければなりません。
向山は子どもたちが仮説をつくった後、その仮説を証明する資料を探させています。
その際、けっこう大事なことがあります。
それは、
その仮説は子どもの力で調べることができるのか
という点です。
なんといっても小学生です。
めっちゃ変な仮説を書くかも知れません。
証拠資料を探しても、結局見つからないまま終わるかも知れません。
時間がいくらでもあるなら、そうした「失敗」を見つめさせてもいいかも知れませんね。
でも、時間は限られています。
放置すれば、成功した子と失敗した子が生まれます。
小学生の授業で、「失敗につぐ失敗」の授業は、あまりおすすめできません。
やはり、多くの子が
調べる楽しさ
を味わい、
成功体験
を重ねてほしいですよね。
向山はこの「成功体験」にこだわっていたと私は思います。
簡単に成功したらつまらないですが、ある程度の負荷があって、成功するのはとても良い学習になります。
向山は、次のような手立てをとりました。
1 子どもたちが選んだ仮説を一人ひとり見て「合格」「不合格」を評定してあげた。

仮説をたくさんつくりました。
その中から自分が証明しようと思うものを三つほど選んで先生に見せにいくのです。
「合格」したら調べはじめます。
「合格基準」はもちろん「子どもの力でなんとか調べることができるもの」です。

2 資料を探すのに苦戦している子には、先生からヒント資料を提示してあげた。
クラス全体に対して一斉に提示したのではありません。
1人ひとりに、異なった資料を、別々に提示したのです。
それは、子どもたちの作文から分かります。
<大山さん>
先生から、主要都市の、江戸時代からの、人口の移り変わりとかいてあり、下に、人口の移り変わりの表がかいてある紙をもらった。なんで、これが、私の仮説とかんけいがあるのかなと思った。

<杉山君>
赤トンボは調べても資料がないので、先生がかしてくれた。それは、公害と環境という本だ。

さらに、次のような手立てもとりました。
3 「図・グラフ」を引用させ、文章は自分で書かせる。その「図・グラフ」は全体を写させる。部分的に都合のいいところだけ引用させない。
4 1つの資料だけでなく、3つか4つぐらいの資料とできるだけ比べさせる。
3も4も大切なことですが、今の教室の授業で、こうしたことはどれくらい指導されているでしょうか。
「情報処理能力」を育てる授業といってもいいのかも知れません。
現在の教室にも活かせることが多いと私は思います。

出典・引用文献
1) 5年社会科「工業地域の分布」学習指導案 1980.11.6 向山実物資料 A57-02-01
2) 谷和樹「向山洋一社会科授業『工業地域の分布』「本時」の展開を再現する—児童の作文の分析からどこまで迫れるか—」2009 向山実物資料 A57-12-01
3) 「授業教材研究ノート」1980 向山実物資料 A04-05-01
4) 「社会科の学習」(児童作文集)1980 向山実物資料 A57-07-01

関連リンク:

(1) Wedge (ウェッジ) 2023年 11月号
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