谷和樹の教育新宝島

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谷和樹の解説

月曜日が待ち遠しくてたまらない
1 月曜日が待ち遠しい
週末が終わった日曜日。
その夜の感覚が大好きでした。
なぜって、
「明日子どもたちに会える」
からです。
月曜日が待ち遠しくてたまらなかったのです。
教師生活後半。
30代の半ばごろからでしょうか。
金曜日の放課後。
子どもたちが下校します。
私は、さみしさでいっぱいになります。
そして、すこし憂鬱になります。
明日の土曜日はセミナー講師。
日曜日はTOSSの重要な教材会議。
プレゼンもレポートも未完成。
自分を奮い立たせ、必死に準備をします。
新幹線の中でも、ただただ作業を続けます。
そしてセミナー、懇親会、会議、また懇親会。
もちろん楽しいです。
学びがいっぱいです。
でも、その一方で、未熟な私は、自分の発表クオリティを上げるのに精一杯でした。
学びのメモで脳内メモリを使い切っていました。
それがほぼ毎週です。
兵庫に帰る新幹線の中。
消耗しきった頭の中で、自分に言い聞かせます。
「もう少しだ」
「がんばれ」
「明日になれば子どもたちに会える」
そう思うと、体がフワッと温かくなるのです。

待ちに待った月曜日の朝。
楽しくて楽しくて、たまりません。
自然と笑顔になります。
声は優しくなります。
土日に学んだことも使えます。
盛り上がる授業。
あるいはしっとりとした授業。
休み時間にも弾む会話。
そして・・・
瞬く間に、また金曜日になるのです。

2 子どもを怒る気にならない
20代の若い頃はもちろんそうじゃありません。
上に書いたのは教師生活の後半の話です。
30代の後半からは、
子どもを怒る
ということも、ものすごく減りました。
「怒る」
じゃなくて、
「叱る」
なら、まあ、たまにありますよ。
でも、
「にこやかに、たしなめる」
みたいなイメージが多かったですね。
「声を荒げる」
とか
「厳しく叱責する」
というのは、非常に少なかったと思います。
そもそも、怒る必要がありませんでした。
当時、私のクラスの子どもたちが言った言葉です。

谷先生は怖くない。
でも厳しい。
なぜか、いつの間にかやらされてしまう。

向山に学んできた
1)授業力
2)統率力
3)システム構築力

等が徐々に身についてきたからでしょう。

当時、印象的だった出来事があります。
5年生を担任したある年のことです。
私は、

一年間一度も怒らなかった
ことがありました。
例によって
「おだやかに、たしなめる」
とか、あるいは
「個別に話をする」
などのことはあったでしょう。
しかし、
「声を荒げる」
「厳しく叱責する」
のようなことを一度もしなかったようなのです。
自分では気づいていませんでした。
そのことに気づいたのは、翌年です。

翌年、私はまた5年生を担任します。
2年連続して5年担任です。
今度の5年生たちは、4年生のときに非常に難しい子たちだったのです。
去年の5年生もやんちゃでした。
でも、それをはるかに上回りました。
超のつくやんちゃ君たちが複数。
私のクラスにはいました。
その子たちに出会って4月の終わりごろ。
授業中。
詳細は書きません。
ある男の子が、非常に問題のある行動をしました。
何度かおだやかにたしなめた後、私は声を荒げました。
その子をまっすぐに見つめました。
両手で机を「バンッ」とたたきました。
「もう一度言ってみろ!」
と鋭い声を放ちました。
子どもたちは静まりかえりました。
(あの谷先生が?)
(怒った!?)
と、頭の上に「吹き出し」が見えました。
その子も反省し、行動をあらためました。
私もすぐに切り替えて、授業を再開しました。
その日のお昼休みです。
去年担任した子たち(つまり6年生たち)が数名、教室の入口から恐る恐る中をのぞいているのです。
「お!ゆうた君、どうした?」
私はにこにこして聞きました。
ゆうた君は去年のやんちゃ代表です。
彼は戸惑ったように私を見ました。
それから、目をそらし、教室の中にいた5年生たちを見ました。
そして、小さな声で5年生たちに聞くのです。
「・・・おい、谷先生、怒ったんか?」
5年生たちが小さくうなずきます。
「ほんとうに、怒ったんか?」
5年生たちが小さくうなずきます。
ゆうた君は信じられないという表情でつぶやきました。
「・・・おまえら、どんな悪いことしたんや?」

1 子どもたちが動く統率力って?
「統率力」「システム」
この言葉を教育界で初めて使ったのは向山です。

子どもたちをほとんど怒らなかった。
怒らないけど子どもたちは自然に動いた。
柔らかで落ち着いた教室の雰囲気だった。
毎日が楽しく楽しくてたまらなかった。
そんな私の昔の思い出を上に書きました。
それが実現していたのは、おそらく

統率力
を向山に学び

システム

を構築してきたからなのです。
今回の新宝島の特典は

夏休み明けクラス再構築の急所
「2学期始業式・漢字テスト」

となっています。32ページのPDFのほかに

向山学級「2学期スタート」雪谷小6年
の音声データまでついているようです。
これは学びの宝庫です。

まず、統率力のほうからいきましょうか。
向山は次のように書いています。

図

この
「リズムとテンポ」
というのは、分かるようで分からないのです。
向山が書いているように
「自分の授業行為を録音して分析する」
ことが必須です。
他に
「優れた授業者の録音をシャドーイングする」
ことも有効です。
今回の特典の音声データ。
その冒頭で向山が「漢字テスト」をする場面があります。
この場面は

「リズム・テンポ」と「統率力」


を学ぶ一級の資料です。
以前、どこかにも書いたことですが、大切なことなので、再度、少し細かく分析してみます。

2 向山の統率力─2学期初日の漢字テスト
それは向山学級の2学期です。
その第1日目です。
朝一番の教室。
その始業式の日に「漢字テスト」をするのです。
子どもたちと朝のあいさつをします。
その瞬間、

間髪を入れずに
向山はすぐに指示をしています。
筆記用具を出しなさい。
かなり早口です。
この指示を、
「全く同じテンポ」
「全く同じトーン」で、

3回繰り返す
のです。
それから、次のように言います。
何をやるかというと、(間)
漢字のテストをいたします。

子どもたちはざわざわとした雰囲気になります。

「えぇー?」とか
「は?」とか
そうした小さな声があちらこちらで漏れ始めます。
「そんなー・・・」
という声も聞こえます。
向山は
「はい」
と言って、おそらくは漢宇スキルなどのテキストを、子どもたちの前で開いたのでしょう。
ここで、子どもたちは確信します。

向山先生はどうやら本気で漢字テストをするようだ。
子ども達のブーイングが大きくなります。
「えぇーっ」
「信じられない!」
教師は騒然としたムードになります。
いや、考えてみれば、2学期の初日ですよ。
昨日、夏休みが終わりました。
そして、久しぶりに子どもたちと出会ったのです。
その朝の、1時間目の、一番最初の活動がこれです。
いきなりの漢字テストなのです。
子どもたちだってブーイングをしたくなる。
その気持ちも分かりますよね。
しかし、このような場面は、教室ではよくあることです。
いつも、いつも、子どもたちが喜ぶような活動ばかりを持ってくるわけにはいきません。
みなさんの教室ではいかがですか。
たびたび起こりうるシーンではないでしょうか。

さて、向山はどのように対応したでしょう。
音声を聞けばわかります。
でも、聞く前に、ちょっと待って。
ぜひ、ご自分におきかえて考えてみましょう。
みなさんなら?
このブーイングのあと、どうしますか?
それをぜひ書いてみては?
それから、先をお読みください。

1)笑顔のまま、何も対応しなかった。
2)最初に声を出した子を見て、
  「漢字のテストをいたします」
  と、ゆっくりやさしく繰り返した。
3)向山も一緒になって
  「えー」
  とブーイングをした。
4)その他

向山がやったのは1)です。
まるで子どもたちのブーイングが聞こえないかのように。
何事もなかったように。
そのまま、漢字テストを進めるのです。

一番。
(まだブーイングの中)
一番。
「合唱団を指揮する」の「指揮」
(間)
(1)、指揮。

この時点で、子どもたちはシーンとなって書き始めます。
そして、その「5秒後」。

はい。
次に一字分、(2)をとって、
(2)、「創意工夫する」の「創意」
「創意工夫」の「創意」

この段階では子どもたちは完全に集中しています。
3問目を出すのはこの「15秒後」です。
たったこれだけの場面です。
これだけの場面ですが、ここからいくつもの学びを抽出することができる。
私はそう思うのです。

第一にこれです。

1)向山は子ども達のブーイングを無視した
これは、発達障害や応用行動分析の専門家たちも同じことを述べています。
・不必要なノイズを除去する。
・不適切な行動は無視する。

ということです。
無視しないでいちいち取り合っていると、「誤学習」してしまうのです。
次のように書いている専門家もいます。

(泣き言をいうなど)よくない行動でも、それほど混乱させることのない場合には、無視することがうまくいきます。

(リンダ・J・フィフナー『ADHDをもつ子の学校生活:こうすればうまくいく』中央法規 2000年)

第二にこれです。
2)リズムよく、テンポよく、活動に入っていった
リズミカルに、メリハリのある声で話す。
そうすると、子どもたちは巻き込まれていくのです。
さらに、さきほど私は「秒数」を示しました。

1間目から2間目の間は5秒、
2間目から3間目の間は15秒。

でしたね。
つまり、最初は

やや、たたみかけるように
指示しています。
子どもたちは
「この勢いで次々に問題が出されるんだな」
ということ雰囲気で予感します。

場の文脈
をつかって
非言語的に
伝えているのです。
スピードが速いので、当然
「追いつけない」
と感じる子も出てきます。
それは向山も分かったうえです。
実際についてこれない子がすこしいたのでしょう。
向山はその子たちの様子を目の端に入れます。
そして3問目に進むとき

若干のスピード調整
のための「間」を入れるのです。
その後、熱中したままで漢字テストは終わります。
何事もなかったように、その後の活動も進みます。
2学期の向山学級初日は、楽しく終了するのです。

こうしたことを向山はおそらく直感的にやっていると思えます。
長年の修練といえばそれまでです。
向山本人に聞くと

学生運動で修羅場を通ってきた体験
がそうした感覚を磨いたのではないか、
とも述べています。
そうかもしれませんが、私たちが向山のマネをして今から学生運動に飛び込むわけにはいきません。

1)授業力・統率力の高い教師をみつけること
2)その教師について教わること
3)教わったことを実直にやってみること

それしかないのだろうと思います。
向山も書いています。

図

「どの子も分る。どの子にも知的だ。どの子も楽しい。」といわれるような「リズムとテンポ」のある授業が大切なのだ。(中略)
授業力のある人に教わること、研究授業、模擬授業を百回はやった人に教わること、力のない人に教わるとデタラメな状況に陥る。「力のある人」を見つけるのも実力のうちだ。

※ちなみに、向山の授業で子どもたちがブーイングする場面といえば、もうひとつあります。
そのときには、向山はまた違った方略をとります。
つまり、一流がもっている方法・選択肢は、ひとつではないということです。

3 システムをつくる
さて、音声データに戻りましょう。
向山はこの漢字テストを約20分で68問出題します。
68問ですよ。
1問あたり約18秒です。
途中、子どもたちが飽きない知的な工夫が満載です。
1)子どもたちに分かりやすい文例を示す。
2)夏休みのエピソードを加える。
3)師尾先生が入ってきたのでそれに関連させる。
4)習ってない文字も出題してしまう。

等々です。
こうしたことによって、
「漢字は文章の中で使う」
ということが強く印象づけられますね。
漢字テストの最後には次の指示をします。

1)答え合わせの方法
2)間違えた字の練習方法

つまり、漢字を教えるというよりも
学習方法を教える
という意識が強いわけです。
学習システム
ですね。
この「システム」という考え方は、とても大切です。
この後、向山が子どもたちにスピーチさせる場面を取り上げてみましょう。

夏休みにあった自分が一番印象的なこと

これを一人ひとり発表させるわけです。
そのまま適当に発表させたら大混乱になります。
何も言えない子。
長く発表してしまう子。
話を聞かない子・・・。
混乱する様子が想像できますよね。
かといって、
「ちゃんとノートに書かせて点検」
していたら時間が足りません。
そこで、向山は次の内容を話します。

1)夏休みにあった自分が一番印象的なこと。
2)15秒以内で。
3)時間がありませんので。
15秒というのは一つのことを詳しく話せば15秒になる。二つのことを話そうとするとだめ。

1)がメインの指示です。
「一番印象的なこと」
という内容(お題)を告げたのです。
2)を「条件」といいます。
条件を明確に示さないと混乱します。
3)を「趣意説明」といいます。
「なぜ15秒なのか」
というと、それは
「時間がないから」
です。
このように
「理由を端的に言う」
ことが大切です。
さらに、少し間をとってから
「15秒の意味」
を加えています。
「一つのことを詳しく話せば15秒」
ということです。

予告なしに初めて告げたスピーチの場面でも、

1)内容は「印象的なこと」
2)条件は「15秒」
3)その趣意は「一つのことで15秒」

ということを示しています。
ごくごく、ささやかな、初歩的な場面のように見えます。
でも、内容、条件、条件の趣意という、スピーチの基本システムを教えているわけです。
向山学級ではこうしたことが繰り返されます。
自然にスピーチの技能が身につくわけです。

今回の特典PDFにはシステムを学べる要素が満載です。

1)宿題を集めるときの趣意説明を含んだシステム
2)席替えで男女ともに人気のシステム
3)提出された宿題のその場での処理システム

等々です。
学ばれたことをぜひ、各地で話し合ってみてくださいね。

出典・引用文献
1)向山洋一『教室ツーウェイ2007年9月号』(直筆原稿) 向山実物資料XA03-200709
2)向山洋一『教室ツーウェイ2007年9月号』(明治図書)p.9-11
3)向山洋一『教育トークライン1993年9月号』(東京教育技術研究所)p.74
4)向山洋一『ハイ!ママCLUB』「新たな気持ちで2学期スタート」(学研) 向山実物資料A36-01-03-08
5)向山洋一『学級通信アチャラNo56.』調布大塚小4年1982 向山実物資料A118(1)-10-01-56
6)向山洋一「始業式の漢字テスト(解説・勇眞)」雪谷小6年1991.9.2 向山実物資料A09-103-02
7)向山洋一『学級通信アンバランスNo.68』大森第四小4年1972 向山実物資料A108-11-01-68
8)向山洋一『学級通信エトセトラNo.60』調布大塚小5年1975 向山実物資料A111-10-01-60
9)向山洋一『学級通信エトセトラNo.136』調布大塚小6年1976 向山実物資料AA112-17-01-36
10)向山洋一『学級通信スナイパーNo86.』調布大塚小5年 向山実物資料A113(1)-13-01-87
11)向山洋一『学級通信アチャラNo56.』調布大塚小4年1982 向山実物資料A118(1)-10-01-56
12)向山洋一「2学期の重点と日常の手立て(メモ)」雪谷小1994 向山実物資料A01-46-01
13)向山洋一「始業式の漢字テスト(テープ起こし)」雪谷小6年1991.9.2 向山実物資料A09-103-01
14)向山洋一「2学期の重点と日常の手立て(メモ)」雪谷小1994 向山実物資料A01-46-01
15)リンダ・J・フィフナー『ADHDをもつ子の学校生活:こうすればうまくいく』中央法規,2000年
https://www.amazon.co.jp/dp/4805819758

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