谷和樹の解説
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2 一時間の流れ |
かつて私は、この授業の一時間の流れを推定し、発表したことがあります。
向山の指導案と授業後の子どもたちの作文から推定したのです。
そのときの資料がこれです。
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その私にとって、映像の発見は大ニュースでした。
6分だけなので全体はわかりませんが、上の資料の「2」の部分や「9」の部分の映像の一部ではないか、と思われます。
一部ですが、そのイメージを得ることができただけでも貴重です。
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3 この授業の価値(問いをつくる力) |
みなさんは今、次のようなことを聞きませんか。
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教師主導から子ども主体へ
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私自身は、「教師主導」と「子ども主体」は矛盾してない!って思ってます。
思ってますが、あまりに教師が「説明」するのはな。
あまりに「暗記」させるのもな。
ちょっとな・・・ってことですよね。
次のような言い方で言われることもあります。
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子どもたちが「問い」を立てる力が大切
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まったくそうですよね。
でも、なかなか難しい。
このあたりのことについて、Wedgeっていう雑誌で取材があったので、よかったらそれもごらんください。
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Wedge (ウェッジ) 2023年 11月号
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子どもたちが「問い」を立てる力が大切っていっても、でも、具体的にどうすればいいの?
って思いませんか。
そのヒントが、この向山の授業にはあります。
できるだけ、かいつまんで書きますね。
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1 経験と学習の関係
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どんな勉強も、紙で勉強しただけのものは、ちょっと弱いです。
「工業地帯」って言いますが、それって「経験」したことあります?
工業地帯を経験するって、ちょっと無理でしょ。
まして、とっても田舎で育った子に、「工業地帯」を肌で理解させるって難しいです。
それは、どんな勉強でも同じです。
だから、実際にやってみたり、見学したり、観察したり、実験したりすることが大事なんです。
もちろん、全部やってみることはできないですが。
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大切なことは、できるだけ経験を通そう
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ということです。
向山はそのことを「雪」にたとえて書いています。
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向山のこの授業では、もともと京浜工業地帯のど真ん中に住んでいる子たちですから、その経験を思い出させることが第一でした。だから、
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君たちは京浜工業地帯の一角で10年余を生活してきた。工業地帯であることを示す体験を述べなさい。
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このような授業から始まっているのです。
経験を思いだしても、それがそのまま「学習」にはつながりません。
それで、次のような作業をさせます。 |
2 仮説化
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次のような文章で「仮説」をつくらせるのです。 |
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1)「〜であれば工業地帯である」(〜が多ければも含む)
2)「〜であれば工業地帯になりやすい」
3)「工業地帯であれば〜である」
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それぞれ、1)指標、2)立地条件、3)影響、を表します。
1)2)は、 |
Aであれば工業地帯
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という形をしています。
Aが原因で工業地帯になっているということです。
3)は、 |
工業地帯であればB
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という形をしています。
因果関係が逆になっています。
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こういう形で仮説を作らせているのですね。
これは「問い」をつくることそのものです。
子どもたちに、 |
自分で問いを持ってごらん
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っていきなり言っても途方にくれるでしょう。
こうした具体的な「方法」を教えるから、問いを立てることができたり、仮説をつくることができたりするのです。
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4 情報処理能力をどう授業するか |
問いを立て、仮説をつくったらそれでおしまいではないですね。
仮説ですから「証明」しなければなりません。
向山は子どもたちが仮説をつくった後、その仮説を証明する資料を探させています。
その際、けっこう大事なことがあります。
それは、
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その仮説は子どもの力で調べることができるのか
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という点です。
なんといっても小学生です。
めっちゃ変な仮説を書くかも知れません。
証拠資料を探しても、結局見つからないまま終わるかも知れません。
時間がいくらでもあるなら、そうした「失敗」を見つめさせてもいいかも知れませんね。
でも、時間は限られています。
放置すれば、成功した子と失敗した子が生まれます。
小学生の授業で、「失敗につぐ失敗」の授業は、あまりおすすめできません。
やはり、多くの子が
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調べる楽しさ
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を味わい、
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成功体験
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を重ねてほしいですよね。
向山はこの「成功体験」にこだわっていたと私は思います。
簡単に成功したらつまらないですが、ある程度の負荷があって、成功するのはとても良い学習になります。
向山は、次のような手立てをとりました。 |
1 子どもたちが選んだ仮説を一人ひとり見て「合格」「不合格」を評定してあげた。
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仮説をたくさんつくりました。
その中から自分が証明しようと思うものを三つほど選んで先生に見せにいくのです。
「合格」したら調べはじめます。
「合格基準」はもちろん「子どもの力でなんとか調べることができるもの」です。
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2 資料を探すのに苦戦している子には、先生からヒント資料を提示してあげた。
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クラス全体に対して一斉に提示したのではありません。
1人ひとりに、異なった資料を、別々に提示したのです。
それは、子どもたちの作文から分かります。
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<大山さん>
先生から、主要都市の、江戸時代からの、人口の移り変わりとかいてあり、下に、人口の移り変わりの表がかいてある紙をもらった。なんで、これが、私の仮説とかんけいがあるのかなと思った。
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<杉山君>
赤トンボは調べても資料がないので、先生がかしてくれた。それは、公害と環境という本だ。
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さらに、次のような手立てもとりました。
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3 「図・グラフ」を引用させ、文章は自分で書かせる。その「図・グラフ」は全体を写させる。部分的に都合のいいところだけ引用させない。
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4 1つの資料だけでなく、3つか4つぐらいの資料とできるだけ比べさせる。
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3も4も大切なことですが、今の教室の授業で、こうしたことはどれくらい指導されているでしょうか。
「情報処理能力」を育てる授業といってもいいのかも知れません。
現在の教室にも活かせることが多いと私は思います。
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出典・引用文献
1) 5年社会科「工業地域の分布」学習指導案 1980.11.6 向山実物資料 A57-02-01
2) 谷和樹「向山洋一社会科授業『工業地域の分布』「本時」の展開を再現する—児童の作文の分析からどこまで迫れるか—」2009 向山実物資料 A57-12-01
3) 「授業教材研究ノート」1980 向山実物資料 A04-05-01
4) 「社会科の学習」(児童作文集)1980 向山実物資料 A57-07-01
関連リンク:
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